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伝道活動―経験が宣教師の将来を形作る

末日聖徒イエス・キリスト教会を代表する者として18か月から24か月奉仕した宣教師は,着古した服と,底に穴の一つや二つ開いた靴,使い込んだ聖典を持って帰郷する。

宣教師は神を信じる堅固な信仰,イエス・キリストの教えと回復された福音に関する知識の向上 ,異文化体験(自国で奉仕する場合も),新しい言語の能力(外国語の場合もあるが,多くの場合コミュニケーション能力が向上する),確かな自信,奉仕先の人々に対する深い愛情など,その後の人生を形作るのに役立つ知識と経験の宝を携えて本国に帰還する。

また,宣教師は目標を立てて実行する能力や,自分と他の人に対する責任感,学業に専念する能力,背景の異なる人たちと良い関係を築く能力も身に付ける。

宣教師の奉仕の目的は,イエス・キリストの福音を聞こうとするすべての人に,それを教えることである。しかし,この経験は宣教師個人にとって将来,家庭や教会,また学業や仕事において,非常に堅固な基盤となる。専任宣教師としての奉仕がその後の人生の方向性に影響を与えたと考えている宣教師は多い。

事業で成功する者もあれば,サービス業や教育,技術の分野で伝道経験を役立てている者もいる。また,ほとんどの人は家族を中心にしながら教会に集い続け,社会奉仕にも参加している。

数の観点から

伝道に出る教会員はボランティアで奉仕し,費用は自分で賄う。1830年代に初めて宣教師が召されてからというもの,約130万人の人々が伝道に出て帰還している。現在1,500万人いる会員のうち,97万6,000人以上が伝道経験者である。 教会全体を見ると,無給で指導者の役割を果たしたり奉仕したりする地元の教会員の多くはこうした帰還宣教師であり,神権指導者の約7割が帰還宣教師である。伝道に出る年齢条件が最近変更されたことにより,奉仕する宣教師がさらに増えた。特に女性ではこの傾向が顕著である。この宣教師たちが帰還すると,地元の教会に大きく貢献するだろうと思われる。

2011-2012年度のブリガム・ヤング大学の学士号取得者のうち,男性の93パーセント,女性の21パーセントが教会の専任宣教師として奉仕した経験を持つ。

もう一つの事実として,2010 に書籍Shield of Faith: The Power of Religion in the Lives of LDS Youth and Young Adults (『信仰の盾:LDSの青少年とヤングアダルトの生活に見られる宗教の力』)で発表された,BYU Religious Studies Center(BYU宗教研究センター)による調査結果からは,米国内の帰還宣教師は学歴が高く,職場での責任感が強く,家族や教会の活動に積極的に関わっている傾向のあることが分かっている。

同年代の若者の大卒者の割合が 18パーセントであるのに対し,この調査の回答者のうち40 パーセントは大卒者である。95パーセントの男性と63パーセントの女性は就職して収入を得ており,世帯収入は国民の平均額を超えている。調査対象者の90 パーセント近くは教会の礼拝行事に定期的に参加し,個人的な宗教活動も実践している(専任宣教師の奉仕終了17年後の情報)。

専任宣教師としての奉仕から得られる利点についての幾つかの実例

専任宣教師としての奉仕に利点があることは統計を見れば明らかであるが,個々の宣教師の実体験を読むと,この驚くべき数値の意味するところがさらによく分かるであろう。

スタンレー・ブラック・アンド・デッカー社の理事長であり7男1女の父親であるノラン・D・アーチボルドは, 伝道経験は自身の教会生活と職業生活の双方に大きな影響を与えたと言っている。

「わたしはディクシーカレッジ(ユタ州セントジョージ)で2年間,ウェーバー州立大学(ユタ州オグデン)で2年間,そしてハーバード大学のビジネススクールで2年間学びました。2年間の伝道で訓練されたことは,他のどんな経験よりもはるかにわたしの人生に良い影響を与えました。伝道がわたしの人生を変えたと思っています。伝道のおかげで,目標を立ててそれを達成する能力が身に付きました。他の宣教師たちの中でもまれ,伝道部会長から鍛えられたおかげで,指導者となるにはどうすればいかかが分かってきました。」

アーチボルドは,自身の7人の息子たちの伝道についても同じことを言っている。 「うちの息子たちは皆,常に成績は良かったですが,伝道経験は,他ではまず得られない霊的な基盤を作ってくれました。人生で進むべき方向を,霊的な面と学問の面で決めてくれたのです。息子のアンソニーが伝道から帰って来たときのことを思い出します。彼には自信がみなぎっていました。そして答えたのです。『僕も思う。自分がどんな人間で,この世でどんなことができる人間なのかが分かったんだ。』」

自分の可能性が分かるようになるという点は,宣教師も,宣教師から教えを受ける人も同じです。

michiru missionary chicago illinois

イリノイ州シカゴ伝道部で伝道中(1998–1999年)のミチル・ジョーンズ。バプテスマを受けたばかりの夫婦と。

現在4児の母親である,ソルトレークシティに住むミチル・ジョーンズは,生まれ育った日本からイリノイ州シカゴの英語圏の伝道部に召されたときには驚きを隠すことができなかった。「英語は何年も勉強していましたが,日本語圏の伝道部に召されるとばかり思っていたのです。四六時中英語を話すなんて,できるかどうか分かりませんでしたが,言葉で苦労したことはありませんでした。フタを開けてみると,自分のキリスト教への,また〔この教会への〕改宗談を人に話すのは,とても大きな祝福だったのです。わたしの言葉には説得力があったと思います。わたし自身,自分の信条を変えるために多くのことを乗り越えてきたからです。」

mormon missionaries 1943

中部アメリカ東伝道部で奉仕する宣教師。1943年,ウェスト・バージニア州ブルーフィールドにて。

国際広告会社の前副社長であるエリン・エンク・ハドリーにとって,物事を次々と計画的に行う伝道の経験は,仕事での成功に欠かせないものだった。ボストンを拠点に働く3児の母であるハドリーは,こう説明する。「伝道では,6週間単位で同僚と一緒に働きことを学び,割り当てられた地域で問題を解決して成功に導くことを学びます。

「職場では,どんな問題でも常に短い期間で対処し,乗り切ることができることを知りました。ほとんどすべての問題について,6週間もあれば,解決策が見えてきます。うまくいくかどうかが自分以外の人の出方に懸っている場合でもそうです。誰かと一緒に働く場合,通常自分が選んだ人ではない人たちと一緒に働くことになるのですが,あなたは決して一人ではありません。例えばグループの中で誰かにミスがあったとしても,皆が助けに入り,力を合わせて解決していくのです。」

ハドリーは,現在も引き続き広報の仕事をしている。就学前の3人の子供を育てながらボストン地域の教会の広報代表としてボランティアで働くとともに,夫が外科医の研修を終えるまでの間,夫を支えるためにも働いているのである。「伝道から15年近くたちますが,振り返ってみると,伝道は,わたしの人生にとっても,この15年間に起こったあらゆる出来事にとっても,なくてはならないものだったということが分かります。よく学び,祈り,断食し,答えが得られると知ることは,日々の生活で難しい問題を乗り越えるために役立ちます。」

効果的な伝道は,後に多くの教育の機会へとつながる。熱心に求める人には様々な教育の機会が与えられ,それはゆくゆく宗教や学問,職業の分野で役立つものとなる。

joseph fielding smith lds missionaries

1901年5月,グレートブリテンで宣教師として奉仕していたときの末日聖徒イエス・キリスト教会第10代大管長ジョセフ・フィールディング・スミス。 スミスは左から2番目。

ユタ州立大学経営学部学部長のダグラス・D・アンダーソン博士は,毎年トップクラスの学生数人を集めて,ニューヨーク市に社会見学に連れて行く。アンダーソン博士は言う。「毎年わたしたちは,傑出した学部生数名を連れて,ウォール街と金融サービス関係の会社に行きます。

いつも決まってこんな言葉が耳に入ってきます。『君たちについて分かっていることは,君たちが正直で働き者だということだ。』伝道を終えて金融業界に入り,ウォール街で働く人たちはこのような特質を持っています。規定の年限伝道して帰還した人たちはこのような特質を身につけているのです。 帰還宣教師は自分を超えた大きな目標に向かって奉仕してきているので,確固たる目標を持ち,自分の技術や才能を伸ばそうという決意は相当なものです。

anthony cannon new zealand temple

ニュージーランド・オークランド伝道部で奉仕していた頃,ニュージーランド・ハミルトン神殿を訪問した後のアンソニー・キャノンと同僚。

ミネソタ州ミネアポリス出身のアンソニー・キャノンは,ニュージーランドでの伝道で,人と良い関係を築くために自分以外の人を思いやるという能力を身に付けた。キャノンは言う。「伝道では同僚が割り当てられます。自分で選ぶのではありません。割り当てられた同僚と四六時中一緒にいて,目標に向かって働くことを学ぶのです。

わたしは一度,宣教師になったばかりで家が恋しくてたまらない同僚を割り当てられたことがあります。この同僚は最初の6週間を乗り切れないと思いました。彼もわたしも悩みました。でも,一日一日をなんとか乗り越え,結局家に帰らずに済みました。わたしは,この同僚を助けるために自分のすべてをつぎ込んだと感じました。そして次の6週間に,今度はわたしが自転車走行中に事故に遭ってしまい,同僚に助けてもらうことになりました。結局,この同僚とは最高の友達になりました。

キャノンは一人一人の個性や文化に合わせて対応せざるを得ない場合があることを,この経験やその他,似たような経験を通して学んだが, それは学業でも,現在従事している医療{いりょう}コンサルティングの仕事でも役立っている。 「わたしは,人と自分の相違点を見ていくうちに,共通点を見つけることができました。これが見つかると信頼関係を築くことができ,どんな割り当てや課題が与えられても,こなしていくことができるのです。」


イリノイ州ペオリア伝道部から帰還して現在ブリガム・ヤング大学陸上部の一員(上掲のビデオ「The Influence of Missionary Work(伝道活動の影響)」で紹介)であるファンファン・チャールズは,福音を教える前に,まず友情が必要だと言っている。「ただ微笑みかけるだけで,また優しい一言をかけるだけで,人の人生に影響を与えたり,人がしだいに神に近づくことができるよう影響を与えたりすることができます。積極的に働きかけて親切にし,目を見て話すならば,相手と何らかのつながりが生まれ,その人の人生に影響を与えることができるのです。

伝道では忍耐することを学び,計画したら,状況に合わせてそれを変更することも学びます。」チャールズは伝道から帰還した後もこの戦略を使い,他の責任ともうまく兼ね合いを付けながら,ユタ州プロボでの学生生活を送った。

ベンソン・メトカーフは,フィリピンで伝道中に,これとは多少異なるが,似たようなものの見方ができるようになった。「まだ伝道が始まって4か月にしかならない頃, わたしは,伝道経験1年という,現地の言葉に堪能で教え方も申し分のない宣教師を後輩とする先輩宣教師になりました。

これは伝道部会長のミスだと思いました。でも会長に尋ねたところ,こう言われたのです。『長老,あなたは人生で,職場でも教会でも,指導者の地位に就くことがあるでしょう。そして,自分より年長で長く仕事に就いていて,経験もあり,賢く才能のある人を指導しなければならなくなるのです。指導者だからといって,誰よりも優秀だというわけではありません。指導者は,人の集団を率いて一緒に何かを成し遂げる人なのです。』

現在わたしはオーストラリア,パースで,世界でも屈指の精鋭たちを率いて経営コンサルタントをしていますが,この時の経験が役立っています。やるべきことは,彼らが自分たちの殻を破って,それぞれの才能をふんだんに生かせるようにすることです。これを行う術は,伝道地で学びました。

elder cox missionaries philippines

フィリピンの都市マニラ近郊の長い田舎道を歩くモーガン・コックスと同僚。

スタンフォード大学の大学院で経営学を学ぶモーガン・コックスは,専任宣教師として奉仕した経験から,忍耐力を身につけることについての教訓を幾つも学んだ。彼はこう説明している。「伝道をしていると,物事がいつでも思い通りに行くとは限りません。困難を経験すると,そこから忍耐することと,難しい状況に対処する術を学ぶことができます。これは後でものすごく役に立ちます。学校でも職場でも,いつも思い通りに事が運ぶとは限らないからです。」

aleisha missionary argentina family

アルゼンチン・ブエノスアイレス北伝道部で伝道していた頃(2009-2011年)のアレイシャ・ライオンズと同僚。アルゼンチンの家族と一緒に。

アルゼンチンで伝道していた頃,テキサス州ヒューストン出身のアレイシャ・ライオンズ・マッキーンと同僚は,ワード(割り当て地域を管轄する教会の単位)の指導者たちが力を合わせて一緒に働くのを見た。「 今は国に帰って結婚し,地元のワードで奉仕していますが,ワードのすべての責任がお互いにうまく助け合って機能しているのを,もっと広い視点から見ることができています。わたしがこのような教会の奉仕の全体像を初めて知ったのは,伝道地でのことでした。」

adrielle missionary family

人里離れたマスカリン諸島の宣教師アドリエル・ハーリング。訪問先の家族と一緒に。

宣教師アドリエル・ハーリング・ボーラーは,20年ほど前に,アフリカの東,はるか遠くのインド洋に位置するマスカリン諸島で伝道した。ユタ州オレム出身のボーラーは,そこで伝道した経験は「職場や社会,家庭で行ってきたあらゆることの基礎になっている」と言っている。

伝道地に来て間もない頃,ボーラーは自分の伝道を「神の御手が導く」のが分かったという。彼女は忍耐し,その導きに頼ることを学んだ。ボーラーはこの原則を,その後仕事を展開するうえでも実践した。

その仕事は,元々志していたものとは全く異なるものであった。言語学習で大学院の学位を取得すると,ユタ州プロボにある宣教師訓練センター(MTC)のプログラム開発に携わったのである。MTCで10年以上働いた後,ボーラーは家庭に入って子育てをしながら時間の都合を付けて自宅で仕事を行っている。

そのような生活の中で,時間を見つけては地域社会の活動や政治活動にも参加し,地元の地域社会に貢献するための努力をしている。「伝道経験があるので,こわいものなどありません。何でもできる自信があります。この自信を得るために,伝道に出ることが必要だとは必ずしも言えませんが,この自信を得るための近道であることに間違いはありません。」

elder gurgel philippines missionary

宣教師のリチャード・ガーグルと話しながら洗濯物を運ぶフィリピンの教会員。

リチャード・ガーグルは,ソルトレークシティに住む医師である。父親も祖父も,ドイツで宣教師によって教会に導かれた。ガーグルに言わせると,宣教師の持つ特質で一番大切なのは,日々の生活の中で優先順位をつける能力だという。

「わたしはフィリピンで伝道しました。フィリピンの人たちはこの世的な所有物をほとんど持っていません。でも幸せで,自分の置かれた状況に満足しています。現在わたしは過酷な世の中で暮らしているので,伝道地での経験を思い出すことのない日は,一日たりともありません。伝道の思い出は,仕事での責任と,自分個人の責任との兼ね合いをうまく取る際に役立っています。伝道地の人たちのことを思い出すと,当座のことだけではなく,永遠の観点から見て大切なことに目を向けられるようになるのです。伝道に出たおかげで,家族もわたしも,測り知れないほどの祝福を受けています。」

書式ガイドの注釈:末日聖徒イエス・キリスト教会に関する記事で,教会の名称を最初に引用する際には,正式名称を使うようお願いいたします。教会の名称の引用に関する詳しい情報は,こちらへ: 書式ガイド書式ガイド.