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JR博多駅前から北へ10分ほど歩くと、商人の街博多の総鎮守である櫛田神社がある。7月には勇壮なお祭り「博多祇園山笠」が催されるこの神社の隣に冷泉(れいぜん)公園がある。ビルが林立する博多地区の中で、緑豊かな、広々とした公園である。2019年5月18日(土曜日)、時折小雨が降る中、お昼を過ぎた頃から、公園に三々五々人々が集まり始めていた。
お弁当の炊き出し支援
末日聖徒イエス・キリスト教会が提唱する「全国奉仕の日」の活動として、福岡ワード*1は「ホームレスへの炊き出し支援」を行った。福岡ワードには17年もの長きにわたりホームレスを支援している姉妹がいる。藤貞巳(とう さだみ)姉妹*2だ。週に一度、大型商業施設から提供を受けたパンをホームレスに配り続けている。ビショップリック(指導者)から藤姉妹のもとに連絡が入った。「全国奉仕の日」の活動としてホームレスへ食料の支援をしたい、というものだった。
*1─ワードとは,地域の教会が管轄する一定の地理的範囲「教区」を意味する
*2─教会では,すべての人が神の子供たちであるとの教えから,男性を兄弟(Brother),女性を姉妹(Sister)と呼称する
一番の懸案事項は、ホームレスの人たちにどのようにして食料の支援を伝えるか、だった。藤姉妹には片腕と呼ぶ人が2人いる。一人は、十数年に渡り、陰になり日向になりして藤姉妹を支えて来た教会員の舟崎芳江(ふなさき よしえ)姉妹。もう一人はてきぱきと仕事を進める松ちゃんこと、松本さんだ。「この二人がいないと、私はこの活動を続けることはできません」と話し始めた藤姉妹。松ちゃんは以前はホームレスだったが、今は支援をする側に回って、藤姉妹を支えている。「ホームレスの人たちにはお気に入りの寝場所があって、一人で行くには危ない場所があります。松ちゃんはホームレスたちの寝場所を知っていて、夜になると、そこを訪れてはチラシを配って回ったんですよ。毎日、毎日配って、ひと月間、配り続けました」と続ける。松ちゃんは「教会のチラシは手直しが必要だったよ。ホームレスには『参加希望欄』は必要ないんだ。食べ物を配ると分かれば、全員参加だからね」と笑う。
100食のお弁当作りの当日、天気予報は雨。ビショップリックは一斉メールをした。野宿をしている人は炊き出しがあるつもりでいるので、雨でも予定通り行う、というものだった。時折小雨の降る午前8時を目途に福岡ワードには総勢30人を超す兄弟姉妹たちがお弁当作りのために集まった。「今までも何か足りないものがあると、食糧支援の前に充たされたことが何度もありました。お金が足りない時はお金が、あるいは必要な品物が寄付という形で来ました。今回もお弁当作りがあることを知らない人から10kgのお米が届いていました」と話す藤姉妹。ワードの会員にも声を掛けて集まったお米は30kg以上。長いホームレス支援が教会員以外の人たちの共感を呼び、寄付してくれる人やお店があるという。
教会のキッチンには業務用、家庭用の炊飯器が何台も持ち込まれ、ご飯炊きが始まった。それより前、作業が順調に運ぶようにと7時半頃から教会へ来て、おかず作りをした姉妹たちもいた。パックにご飯を詰める人、おかずを乗せる人に分かれ、お弁当作りが始まった。「ご飯はモリモリ入れてね」と藤姉妹から指示が飛ぶ。熱々のご飯にふりかけを混ぜ、パックに詰めるのはなかなか大変だ。ビニール手袋をして少しでもお弁当の熱が手に伝わらないようにと工夫しながら100個のご飯をパック詰めした。テーブルの上にはご飯の上に乗せる、味のついた竹輪やウインナー、半月卵、漬物、梅干し等が並んだ。流れ作業で段取り良く100個のお弁当が作られていった。台の上に運ばれてきたお弁当にお箸が添えられ、出番を待った。
お弁当作りに参加した兄弟姉妹たちは「よく笑い、おしゃべりをしながらお弁当作りをしたのが楽しかった!」と口々に語る。しかも、その楽しさは他の活動の時とは一味違うものだったという。教会員以外の女性の応援もあった。「教会の人の紹介で今日はお弁当作りに来ました。一生懸命に働いて楽しかったです」と恥ずかしげに小声で話した。
公園で夏物衣料とお弁当を配る
お弁当の出発は12時半。外に出てみると雨は止み、心地よい風が吹いていた。「お弁当を配るには理想的な曇り空だね」が出発の合図のように、一斉に福岡市の繁華街にある冷泉公園へと向かった。
人々が集まるまでの間、別途集めた夏物衣料をシートの上に広げた。ホームレスの人たちは脱皮をする如く、季節ごとに服を変えていく。季節が終わる度にそれまで着ていた服は処分し、新しい季節の服を手に入れる。身軽でいることが求められるホームレスの人たちの知恵だ。集まった段ボール5個分の服は、持ち主が洗濯やクリーニングの後、A4のビニールの袋に詰め、M、Lなどのサイズ表も入れた。同じサイズのビニールの袋に入れるのは、寄付する側、貰う側の双方にとって便利である。品物が選びやすく、取り扱いやすい。長い間支援を続けている藤姉妹ならではの知恵であった。そうこうするうちにホームレスの人も次第に増えて来た。黄色のヘルピングハンズのベストを身に着けた教会員や宣教師たちも加わり、話す声がにぎやかになり、服選びは佳境に入っていた。
当初予定していた午後2時を待たずにお弁当配布を始めることにした。松ちゃんの声掛けに応じて集まった人は80人を超え、木陰に長い列が出来ていた。藤姉妹の「愛情弁当ですよ~!」の声が公園に響き、お弁当が手渡され始めた。そのすぐ近くでは紙コップに麦茶を注ぐ宣教師たちの姿があった。「美味しいですか」の声掛けに、「温かいご飯は久しぶりです」「美味しいです」「毎日あるといいな」など笑顔での返事があった。その後もホームレスの人は増え、準備した100食全てが手渡された。
「いつもはパンを配るのですが、温かいご飯は格別です。今日はお腹いっぱい食べてみんな笑顔になっています。私一人ではここまでのことはできません。教会がこのような形で支援してくれると本当に助かります」と全国奉仕の日の活動に対し、藤姉妹から感謝の言葉があった。加えて、「毎年一度でもこのようなプログラムがあると助かります」とこれからの支援の希望も添えた。
福岡ワードの甲斐大介(かい だいすけ)ビショップは「全部で40人位の教会員がこの活動に参加しました。皆さんの顔が晴れやかで、積極的に仕事を見つけて動いている姿が印象的で、喜びにあふれているように見えましたね」と話す。NPO法人の方も食糧支援の場に来ていた。「また次の全国奉仕の日があれば、NPO法人の方とも密に連絡を取って、よりよい支援をして行けたらいいと考えています」と将来への展望を付け加えた。
クリスチャンはなぜ奉仕をするのか
教会の大管長会のヘンリー・B・アイリング管長は,奉仕に関する4つの原則を総大会で語った。
原則1――「すべての人は,自分と家族を養い,人々の世話ができるときに,より幸福であり,より自尊心を感じるものです。」
原則2――「困っている人に仕えるために手を携えて協力するとき,主はわたしたちの心を一つにしてくださいます。」
原則3――「自分と一緒に家族も参加させるということです。そうすることで,ほかの人のことを思いやると同時に,家族として互いに思いやることができるようになります。」
原則4――「わたしは真理を見いだすときと同様に,貧しい人の世話をするときにも,主が聖霊を送ってくださり,『捜せ,そうすれば,見いだすであろう』という言葉が成就することを知りました。」
お弁当作りが楽しかったと口々に話した会員たち、公園でホームレスの人たちに声を掛けた会員たち、子供を連れて参加していた会員全てにこの原則が当てはまる。「ヘルピングハンズの精神はミニスタリング*3に通じる」と地域会長会の指導者は語る。教会からの贈り物であるこの「全国奉仕の日」。参加者は「与える」という行為でありながら、奉仕をする事で、イエス・キリストの資質の一部を「受け継いだ」のである。他の活動とは一味違う喜びの源はそこにあるのを心に感じた一日だった。
*3─ミニスタリング(Ministering)とは,イエス・キリストが行ったように,人々の必要をよく見極めて一人一人に仕えること。キリストの弟子であるクリスチャンの奉仕の理念である