ユタ州では医療目的のマリファナ使用の合法化案が大きな論争を巻き起こしている。マリファナ使用による個人、家族、社会一般への悪影響は周知のことである。一方で、状況によっては医療目的のマリファナ使用によって恩恵を受ける者がいるという声もある。
そこで、教会はソルトレークシティのある法律事務所に対し、今秋の投票に向けて提出されるこの医療目的のマリファナ使用合法化案について法的分析を行うように依頼した。教会はこの案が可決された場合、何が起こるのかについて知りたいと考えている。依頼を受けた法律事務所が分析を行った項目についての覚書は以下の通り。この覚書には、マリファナ使用が合法化された場合に起こる大きな問題とそれが招く深刻な結果について記されている。教会は、すべての人々にこの覚書を読み、自分自身で該当案の可否を判断するようにお願いするものである。
カールトン・マッコンキー法律事務所の覚書
以下の分析は、2018年11月に投票の対象となる可能性のあるユタ州医療目的マリファナ使用合法化によって発生する問題点のいくつかに言及するものである。
- マリファナ合法化によってマリファナの自家栽培を許可される人が出る。医療目的で大麻使用を許可されたことを示す証明書(医療的大麻使用カード)を有する人で、大麻による治療を受ける施設から100マイル(約160km)以上離れたところに住む人には、「医療目的で個人的に使用する大麻6株まで」の自家栽培が許可される(第26-60b-201(6)(d)項)。ユタ州がマリファナ自家栽培の免許を与える、あるいは栽培を監視することを許可する条項は今回の案には記載されていない。
- マリファナ合法化によって、マリファナの自家栽培が許可され、購入量や使用量の制限を守る必要がなくなる。マリファナ合法化は、14日ごとに治療施設から2オンス(10gのテトラヒドロカンナビノールまたはカンナビジオール)の大麻購入を許可するものである。(第26-60b-502(3)-(4)項)しかし、今回の合法化案は、大麻を自家栽培する許可を得た人が制限を超えた大麻使用の防止を可能にできるようにはなっておらず(多量の使用も可能となる)、また自家栽培しながらも同時に治療施設から最大量を購入することも可能である。
- マリファナ合法化は法の執行を非常に困難にする。警察は、個人使用のために自家栽培された合法マリファナと非合法マリファナの区別をつけることができない。さらに合法的に購入したマリファナと非合法的に購入したマリファナの区別をつけることもできない。2つを明確に区別するためには、医療的使用を認める大麻カードを有する者で大麻を所持する者は、その大麻が「許可を得た大麻治療施設から購入した大麻または大麻製品であることを示すラベル…」を所持しなければならない。(第26-60b-204項)大麻カード保有者が合法的にマリファナを購入し、その合法性を示すためにそのラベルを警察に見せること自体難しいことではないと考える。しかし、大麻カードまたはラベルを所持しない人への罰金はわずか100ドル(約11,000円)である。(第26-60b-204(5)項)
- マリファナ合法化は、免許を持った薬局ではなく、マリファナ治療施設で医療目的に使用するマリファナを販売するように定めている。わたしたちが考える限り、厳重に管理された物質であるうちマリファナだけが、ユタ州では処方箋なしに、そして免許を持った薬局以外で、医療目的の使用という名目で購入できることになる。(第26-60b-301, 26-60b-502項)
- マリファナ合法化は、大麻の販売60日を経過した時点で売り上げ記録を州に破棄することを求めるもので、これによって法の執行が妨げられる。薬局は管理された薬物を販売するため、連邦法および州法により販売記録などの保管は厳しく定められており、販売記録は最低5年間の保管が義務付けられている。ユタ州管理規約第R156-37-602項を参照。マリファナ合法化は同様の義務付けを大麻製造組織または大麻治療施設に求めていないどころか、ユタ州保健局に大麻製造施設や大麻治療施設から受け取った記録を60日以内に破棄することを義務付けている。(第26-60b-103項)これは警察による捜査と違反者処罰を著しく妨げるものである。
- マリファナ合法化は、大麻診療所が医療的大麻使用カード保有者に対し無料サンプルの提供を許可するものである。(第26-60b-502(7)項)これはマリファナ使用を勧めるものとなる。
- マリファナ合法化は多数のユタ州民に医療的大麻使用カード所有資格を与えるものとなる。提出された法案では、(1)ユタ州の住民である、(2)医師が患者は「大麻使用が必要な疾患」を有していると診断する、(3)医師が大麻による治療で患者が「恩恵を受ける可能性がある…」と考える、のすべてを満たせば、医療的大麻使用カードを貰う資格があるとされる。(第26-60b-201項)「大麻使用が必要な疾患」には、生命を脅かし衰弱を招く疾患があるが、その中には診断が困難な疾患や、「慢性疼痛」のように多くの人が有し、その程度も様々な疾患がある。ある統計によると人口の15%以上が慢性疼痛を有しているとされている。さらに、マリファナの使用が患者に有益であると医師が信じるだけで、患者はカード所有者となれる。最後に、保健局は医療的大麻使用カードの所有を否定できる立場になく、医師からの紹介があれば「…15日以内に」患者にカードを発行しなければならなくなる。(第26-60b-201(1)項)
- マリファナ合法化は、薬物犯罪を含む犯罪歴のある人に医療的大麻使用カードを発行することを許可する。(第26-60b-201項)医療的大麻使用カードは前科による制限なく発行され、一旦発行されたカードを取り消す条項もない。
- マリファナ合法化は、ありふれた疾患だが確認と診断が困難な疾患にもマリファナの使用を許可するものである。「大麻使用が必要な疾患」の中には、例えば「慢性疼痛や消耗性疼痛」がある。(第26-60b-105(1)(k)項)医療用マリファナの使用が合法化された他の州では「特定の重篤な疾患や状態を有するのは、マリファナユーザーの中のわずか」とされ、診断と確認が困難な「慢性および消耗性の疼痛」は医療目的のマリファナ使用を申請した人々に「群を抜いて最も多くみられる状態」である。ある解説者は、「統計学的に見て、『慢性』または『重度』の疼痛、そして裏付けの乏しいエビデンスが多いことから、申請者が申告すれば、医師は慢性疼痛を『大麻使用が必要な疾患』とするが、実際にはそうではない…」としている。
- マリファナ合法化は患者が初診時に医師から推薦状をもらうことを可能にする。今回の合法化案では、医師が過去に患者を診療したことがなくても患者を大麻治療施設に紹介することができ、患者の医療記録の見直しや、大麻治療がどのように効果を上げているかの追跡も義務付けられていない。医師は「患者の状態と治療歴を完全に評価する」ことが求められているものの、1回の来院で患者から報告を受けただけで「評価を行った」とすることも可能である。(第26-60b-107(4)項)医療的マリファナ使用を合法化した州においては、「処方箋を書く医師は、カードを申請する患者に対する過去の診療歴はなく」、初診時に患者が話すこと以上を知っている医師は少ない。またマリファナ合法化には、患者が6カ月ごとに異なる医師の診断を受け、推薦状の更新を行うことを防止する手立てはない。
- マリファナ合法化は少数の医師に多数の推薦状を発行することを可能にする。医師は担当する患者の最大20%に対して大麻の使用を推奨することができ(この制限を厳守させる方法はない)、専門医の中には患者数に制限なく大麻使用を推奨することが可能な者もいる。(第26-60b-107(2)-(3)項)医療的マリファナ使用が合法化された州では、大多数の使用者にマリファナを処方した医師の数は比較的少ない。例えばコロラド州では、マリファナ使用の推奨全体の70%は、わずか15人にも満たない医師によって処方されており、報告されているマリファナ使用者全体の94%は「重度および慢性疼痛」という誰もが入るカテゴリーの患者であった。
- マリファナ合法化は、マリファナの影響および患者が治療中の疾患に関して、何の訓練も経験も持っていない医師によるマリファナ使用推奨を可能にする。(第26-60b-105; 26-60b-201項)どんな「医師」でも患者に大麻治療を紹介することができる。「医師」とはユタ州の法律の元、「スケジュールII」に分類される管理された物質を処方することのできる者と定義される。(第26-60b-107(1)項)この定義に当てはまるのは、検眼医、足病医、歯科医、医師の助手、認定助産婦などである。(ユタ州管理規約第R156-37-301項)
- マリファナ合法化によって処方箋が必要なくなる。患者が一旦、有効期限6カ月(医師がそれより短い有効期間にすることを推奨する場合を除き)の医療的大麻使用カードを入手すれば、14日ごとに最大量の大麻購入が可能となり、それを患者が好きなだけ使用することが可能となる。(第26-60b-502(3)-(4)項)マリファナ合法化案は、医師が処方できる特定の用量を定めておらず、治療の有効性に基づいて継続使用の可否が決定されるようになっていない。患者の疾患の重症度または現在の必要量によって処方すべき用量が定められていない。購入できるマリファナ用量は医療的大麻使用カード保有者すべてに一律であり、疾患の種類やその重症度によって定められていない。またマリファナ合法化案は、特定の患者のマリファナ使用に対し医学的効果を監視することを求めていない。薬剤は、患者の年齢、疾患、既往歴、家族歴、その他の薬剤使用歴によって相互作用を起こす。一般的に使用が可能となる前に、有害事象や相互作用について詳しい監視が行われている合法薬剤の場合とは異なり、今回のマリファナ合法化は患者の安全を確保するために通常設けられている科学的なプロセスを経ることを求めておらず、マリファナ使用によって起こりうる有害事象の監視を医師に求めることもしていない。
- マリファナ合法化は医師の責任を免除する。マリファナが合法化されると、以下の条項により、大麻治療を推奨した医師を民法または刑法で罰することができず、医師免許の剥奪すらできなくなる。(第26-60b-108項)医師は短い診察さえすれば、あとは日常的に簡単に医療的大麻使用カードの推薦状を出すことが可能となる。また大麻使用が悪影響を及ぼす患者にも誤って推奨を出す可能性もある。合法化されれば医師に対する捜査活動、処罰や制裁を下すこともできない。
- マリファナ合法化によって、未成年者に医療的マリファナ使用が許可される。子供が「大麻使用が必要な疾患」を有していれば、その親または保護者は医療的大麻使用カードを入手することができる。(第26-60b-201(2)(b)項および第26-60b-105(1)項)患者になるための年齢制限(下限)は設けられていない。
- マリファナ合法化は未成年者のマリファナ入手をより簡単にする。2015~2016年の米国薬物使用と健康調査(National Survey on Drug Use and Health)を詳細に検討した米国保健社会福祉省内の機関である物質乱用とメンタルヘルスサービス管理(Substance Abuse and Mental Health Services Administration)によると、12~17歳の小児(および成人18~25歳)におけるマリファナ使用率は、娯楽的および医療的マリファナ使用が合法化された州において通常、有意に高いことが示されている。ユタ州の使用率は両年齢群において米国で最も低かった。マリファナ合法化案が可決されれば使用率が上がる可能性がある。
- もしマリファナ合法化案が可決されれば、医療的マリファナ使用は若年層において増えることが考えられる。医療的マリファナ使用支持者は、通常、マリファナを使用する患者は比較的高齢で治癒の見込みのない疾患を有する患者と説明することが多いが、すでに医療的マリファナ使用が合法化された州の現状はそのようになっていない。カリフォルニア州サンディエゴ警察による強制捜査によって押収された文書によると、医療的マリファナ使用者の72%は17~40歳であった。コロラド州では同使用者の61%の平均年齢は39歳であった。モンタナ州では25%が21~30歳、ネバダ州では53%が44歳以下であった。これは医療的マリファナ使用が合法化された州においてよく見られる傾向である。医療的マリファナ使用を行う主な理由は、特定の診断可能な疾患ではなく、「慢性疼痛」である。
- マリファナ合法化案が可決されれば、医療的大麻使用カード配布が開始される前に、即刻マリファナ所持が合法化される。マリファナ所持で逮捕されても、所持者は「医療的大麻使用カードを受ける資格がある」こと、そしてカードが初めて発行される2020年7月1日後にはマリファナ所持が合法であることを伝えれば咎められることはなくなる。(第58-37-3.7(1)項)
- マリファナが合法化されると、ユタ州以外の州で発行された医療的大麻使用カードを所持している人のマリファナ所持が合法となる。(第58-37-3.7(2)項)つまり、ユタ州は他州が発行した医療的大麻使用カードを有効と認めなければならない。
- マリファナ合法化によって、家主による医療的マリファナ使用者への物件賃貸拒否が禁止される。(第26-60b-110項)マリファナ合法化は家主がマリファナ所持者への物件賃貸を拒否または物件内でのマリファナ使用を禁止できるかどうかを明確にしていない。しかし医療的大麻使用カード所持者に対しては、賃貸拒否ができなくなる(但し、賃貸拒否をしなければ家主が連邦政府からの手当てを受給できなくなる場合は除く)。
- マリファナ合法化によって、マリファナ治療施設に対する土地利用規制条例の適応が禁止される。地方自治体は管轄区域内で「大麻治療施設の運営を禁止する土地利用規制条例」を制定することができない。(第26-60b-506(1)-(2)項)マリファナ合法化によって地元法執行官は連邦法を執行することができなくなる。(第58-37-3.8項)これは後にユタ州への連邦法執行資金の分配に影響を与えることがある。
- マリファナ合法化は、大麻治療施設を住宅地から300フィート(約90メートル)、学校、教会、図書館、講演、運動場からは600フィート(約180メートル)離すことを求めるだけである。(第4-41b-201(2)(a)項) こういった取り決めはあるものの、連邦法では、学校と運動場から1000フィート(約300メートル)以内でマリファナを販売した者には非常に大きな罰則を科すことが定められている。
- マリファナ合法化は、マリファナの影響下にある人が車両を運転して、人身に重度の損傷を与えた場合の罰則を軽くする可能性がある。現在の法律では、「マリファナ、テトラヒドロカンナビノールまたは同等の薬物が…体内に残存している状態で、過失によりモーター車両を操作し、人身に重篤な損傷を与えた場合、第2級重罪となる。ユタ州規約第58-37-8(2)項。マリファナ合法化によって、法的責任を問えるのは「マリファナの体内残留が認められた者」ではなく、「車両運転中にマリファナを使用した者」のみに狭められる。特にマリファナ合法化案の第58-37-3.6b(b)項には、「モーター車両を運転中に大麻あるいは大麻製品を使用した者は処罰から免除されることはない」と記されている。意図したものであるか否かは定かではないが、この不備のある条文は、マリファナの影響下にある状態で運転した者に対する法的責任を求めていないように思われる。
- マリファナ合法化によって科学は無視される。マリファナ合法化によって、カンナビノイド製品委員会(ユタ州規約第26-61-201項)は大麻治療の効果に関する研究の再検討が課されることになる。この委員会は大麻治療に関するガイドラインを作ることができるが、今後の研究でマリファナ使用が現在考えられているよりも危険である、あるいはマリファナ使用に認められた疾患に対する治療効果はないという結論が出されても、またいかなる理由があっても、ガイドラインによって「大麻の入手方法をより厳しく規制する」ことはできない可能性がある。(第26-61-202(6)項)
- 州議会は意図せぬ結果に対し、救済措置を施さない可能性がある。法律には不明なあるいは意図せぬ結果がつきまとうことが多い。意図せぬ結果はほぼ確実に起こる。州議会は、住民投票で決定した事柄を修正あるいは撤回することに及び腰になることが多く、代わりに州民の希望を尊重することが多い。
- 連邦法ではマリファナの栽培、販売、所持は厳格な罰に処せられる犯罪である。連邦議会はマリファナの栽培、販売、所持を犯罪と定めた。連邦法規集第21章第801項以降参照。マリファナは、ヘロイン、メタンフェタミン、LSD、メスカリンなどと共に「スケジュールI」に分類される薬剤である。連邦法規集第21章第812項参照。罰則は、少量のマリファナ所持の初犯者には最高1年の禁固刑(前科一犯では2年、前科二犯であれば3年)、マリファナの販売または栽培に対しては、その量により、5年~終身刑および罰金1,000~100万ドル(約11万~1億1千万円)が科せられる。連邦法規集第21章第841項以降参照。未成年者への販売、学校やその他の保護された場所から1000フィート(300メートル)以内での販売には、大幅に罰則が加算される。連邦法規集第21章第859~860項参照。マリファナ所持で起訴された者は連邦政府から支給される特定の手当てが拒否される。連邦法規集第21章第862および862a項参照。
- マリファナ合法化はユタ州民を連邦裁判訴訟に巻き込まれるという重大なリスクにさらす。2018年1月4日、米国司法長官のジェフ・セッションズはオバマ政権の連邦マリファナ法に対する緩和措置を廃止した。これにより、セッションズ長官は連邦検察に「マリファナは危険な薬物でマリファナ使用は重大な罪である」ということを思い起こさせた。連邦検察は今後、連邦マリファナ法による積極的な取締りを強化する可能性がある。マリファナ合法化が可決されると、それはユタ州民に連邦マリファナ法を破るよう勧めるものとなり、それを行うと起訴され禁固刑が科されることになる。
- マリファナ合法化をあてにする銃所有者は厳しい連邦法による刑罰に処されることがある。連邦法は、マリファナを販売中または所持中に「銃器所持」さらには「銃器を所有」するすべての者を最低5年の禁固刑に処すると定めている。連邦法規集第18章第924(c)項。この法律は、「誰を傷つけることもない非暴力的銃所有者にも適応されることが多い。さらに、この法律は、合法的に銃やライフルを購入し登録を済ませた人でも、その人の家においてその銃器が発見された場合に適応され、実際にマリファナを販売中・所持中に銃器が手元になく、使用されることがなかったとしても同様である。」マリファナが合法化されても、マリファナを所有または販売する者は、銃を携帯する許可証を有し、銃器を合法的に所持していても、無条件に複数年にわたる禁固刑が科せられるリスクがある。
- マリファナ合法化をあてにする移民は、自分の立場を危うくする可能性がある。移民のための法律リソースセンターは、「州法によればマリファナ使用によって自分の移民という立場に悪影響が及ぶことはないと考える移民がいるかもしれませんが、それは残念ながら間違いです!マリファナ所持は連邦法に抵触し、移民関連の問題も連邦法によって裁かれます。」としている。例えば、グリーンカードや市民権の申請、米国外への旅行などの手続きの際、マリファナの使用や所持がある移民には何らかの問題が発生することがある。