2021年2月25日、ジョン・A・マキューン長老一行は宮城県漁業協同組合仙南支所(10年前の亘理支所)を訪問した。
東日本大震災の津波は沿岸漁業に甚大な被害を与えた。震災当時、漁業の現場でどのような支援物資が必要とされているかは、現地に入って聞き込みをしないと分からなかった。被災状況が各地で全く異なるためだ。亘理支所支援のために教会がヒアリングをした2011年5月、先方からは真っ先に製氷機が提示された。
宮城県漁協亘理支所は被災翌月の2011年4月から業務を再開した。しかし、荒浜漁港に係留していた漁船84艘のうち82艘が流されていた。漁船は陸に打ち上げられ、倉庫は粉々になり、桟橋は破壊され、魚網は絡みついた。たとえ漁船を修理し、陸や海から備品の幾つかを回収したとしても、日々水揚げした魚を保存するための氷がなければ漁師たちは漁に戻ることはできない。
2011年6月15日、H・デビッド・バートン管理ビショップ(当時)が亘理支所を訪れ,教会からの製氷機1棟、氷点下冷凍庫5台、保冷トラック1台、およびそのほかの設備や物資の目録を贈呈した。*1 荒浜漁港では直後の6月下旬から水揚げが再開,1日3.5トンの生産能力を持つ教会寄贈の製氷機施設は8月上旬に稼働を開始する。その後、漁獲量は2014年から目に見えて増加し、2016年には約7億5,000万円と震災前の2.8倍になった。それでも仙南支所(かつての亘理支所)には、「今でも当時のことは語れない職員が多くいる」という。教会が提供した支援を深く感謝しつつも、当時のことを話し始めると涙が止まらない。経済、家族、街とともに心まで破壊された2011年から、何とか立ち直ってきた漁業従事者の心の支えになったのが、こうした支援施設である。教会の人道支援は、心を癒しつつ、経済の立て直しの土台となっていた。
これからはどのような支援を継続するのか。マキューン長老と一行は同2月25日の午後、宮城県塩竃市在住の東海林良昌氏を訪ねた。東海林氏は全日本仏教会(JBA)元理事長・世界仏教連盟(WFB)名誉副総裁である。末日聖徒イエス・キリスト教会は現在、塩竃市水産課とJBA、WFBと共同で、過疎化する地域と漁業人口減少への支援策を協議中である。東海林氏は、「ブリガム・ヤング大学主催 “法と宗教のシンポジウム”に出席させていただき、まさに宗教が人道的支援をすることで、宗教が提供できる癒し、自立を推し進めることができると感じました。これはそのような意味でも大変重要な作業です」と語る。仙台ステーク右田英生会長も同じプログラムの延長線上で、現地の方々へのボランティア活動を計画している。
訪問した4か所に共通して言えるのは、教会の提供した支援が、復興へと向かう人々の気力と勇気の源となり、自立への礎となっていることだ。もちろん、教会の支援が全ての要因ではないが、着実にその一部となっていることが見て取れる。マキューン長老と教会のスタッフたちは、10年の節目にあって、かつての被災地で自らを奮い立たせ明日へと走り始めている多くの方々と語り合うことができた。
東北からの帰路にも、車中の福祉自立サービス部スタッフに九州・中国地方から電話が入る。平常時にも教会の人道支援は前進する。災害が起きるたびに人道支援を実施しているのではない。人道支援は常に提供され続けている。災害は思わぬ時にやってくる。しかし、キリストの御手はいつでも,どんな状況にあっても,自立したいと願う人々へ差し伸べられているのである。
*1─「漁師が再び生計を立てられるよう助ける教会」リアホナ2011年8月号ローカルページ,1参照