2025年5月24日、末日聖徒イエス・キリスト教会下関支部にて、市民団体「いのちの関門ネッツ」による炊き出しとフードパントリー活動「つながりキッチン」が行われた。炊き出しのハヤシライスを配布する様子 2025 by Intellectual Reserve, Inc. All rights reserved. | 1 / 7 |
2025年5月24日、一足早い梅雨を思わせる雨模様となった山口県下関市。末日聖徒イエス・キリスト教会下関支部にて、生活困窮者の支援者を繋ぐ市民団体「いのちの関門ネッツ」主催の炊き出しとフードパントリー活動「つながりキッチン〜支え合う食の空間〜」が行われました。
いのちの関門ネッツ(以下「関門ネッツ」)は、生活困窮者支援を目的に、フードバンクや子ども食堂など、普段はそれぞれの支援活動を行なっている人々が連携して活動する団体で、下関市在住の教会員である福永健二さん・馨さん夫妻も参加しています。(「関門ネッツ」に関する過去記事:「様々な信仰を持つ人々が、生活困窮者支援のために協働する~善意と信仰によって輝く『いのちの関門ネッツ』~」)
新たな出会いを求めて
「関門ネッツ」代表を務める中井淳神父(カトリック・イエズス会)は、これまでも市内の別の場所で子ども食堂を開いていましたが、子どもだけでなく幅広い年代に働きかけたいと思うようになったことが「つながりキッチン」発足のきっかけとなりました。「私たちは金曜日にも下関駅前で炊き出し支援を行っていますが、そちらはお弁当を配布するだけで一緒に食べるスペースはありません。その方たちにゆっくり食事を取る機会を提供したいと考えた際、子ども食堂とは違う場所が必要だと思いました。いつも同じ場所で活動しているのでは出会える人も限られますし。」
「地域に開かれた教会へ」をモットーに、様々な機会に教会の建物を活用することに取り組んできた福永さんはその話を聞き、活動場所として下関支部を提案します。こうして下関支部での「つながりキッチン」の開催が決まりました。
食事スペースにて
食事スペースにて、音楽を聴きながら炊き出しのハヤシライスを味わう 2025 by Intellectual Reserve, Inc. All rights reserved.温かな食事とフードパントリーが生み出した交流の機会
この日準備されたのは、炊き出しとしてハヤシライス70食と持ち帰り用のフードパントリー30セット。フードパントリーは、パックごはんやレトルトカレー、カップラーメンなど手軽に食べられる食材に、チューイングキャンディなどの嗜好品、歯ブラシなどの衛生用品が袋詰めされています。詰め合わせ作業は、「関門ネッツ」メンバーと応援に駆けつけた下関支部の宣教師*1たちが行いました。
午後6時頃、小雨の降る中、少しずつ人々が下関支部に集まり始めました。笑顔で出迎える関門ネッツメンバーや宣教師たちに案内されてハヤシライスを受け取った人々は別室に設けられたテーブルにつき、温かい夕食を味わいました。
食事スペースでは、隣り合った人々が知り合い、談笑する姿があちこちで見られました。進路について大人たちに相談する大学生、青少年の膝の上で携帯ゲームに興じる子どもたち、宣教師と英会話を楽しむ人々……普段、下関駅前での炊き出し活動に訪れている男性は言います。「炊き出しはその場でコーヒーなんかは飲めるけど、お弁当なんかは食べられない。こうやって明るい中でご飯をゆっくり食べられるのはいいし、みんなと食べられるのは楽しかった。こういうのをしょっちゅう開いてほしいね。」
この日、初めての支援活動参加となった「関門ネッツ」メンバーの松本武利さんは、その場の温かい雰囲気に感銘を受けました。「皆さんが音楽を聴きながら和気あいあいと食事をしておられる、その雰囲気は想像以上でした。みんなで同じものを食べる食事に関する活動は素晴らしいです。」仕事を定年退職してできた自由な時間でボランティアをしたいと関門ネッツへの参加を決めた松本さん。この日はフードパントリーの袋詰めや来場した方への案内などを行い、「次回もぜひ参加したい」と語りました。
食事を受け取るのと同じ部屋で、用意されたフードパントリーも配布されました。市内在住で、5人の子どもたちを伴って訪れた女性は、物価高の中このような取り組みは本当にありがたいといいます。「我が家は1ヶ月でお米が30キロは必要なんですけど、今お米の値段が全然下がらないので本当に大変で……。子どもたちにはたくさん食べさせてあげたくて母親の私は我慢する日が多くなってしまうので、とても助かりました。」
セッション
この日、食事スペースで演奏を行った高木邦松さん(電子サックス)と三栖敏彦さん(ギター)。二人のセッションが決まったのは開始20分前にも関わらず、本番では情緒豊かな演奏を披露し食事の時間に彩りを添えた 2025 by Intellectual Reserve, Inc. All rights reserved.地域団体と連携して探る支援の可能性
物価高騰に米不足、多くの人々が経済的な不安を抱える現在の日本で生活困窮者支援の必要性は増している、と福永さんは感じています。
下関市の包括支援センター長を務めている福永さんですが、最近高齢者の貧困についての相談が増えているといいます。物価は上がっていくのに年金額は変わらず、生活苦からお店で万引きをしてしまう高齢者が増えています。「その話を聞いたとき、これはこの地域だけではなく日本全国で起こっている問題だと感じました。政治的・経済的な理由で暮らしが豊かにならない。お腹はすくし収入もない。その隙間を埋める作業を誰かがしなければならない。それが関門ネッツの活動指針のひとつになっているんです。」
雨のため、予想よりは少なかったものの様々な人々が足を運んだ「つながりキッチン」。用意した70食のハヤシライスのうち50食ほどをその場で提供し、フードパントリーもほとんどが持ち帰られましたが、支援活動を続けていくためにクリアしなければならない課題もあります。関門ネッツで事務局を務めながら、市内のフードバンクでも事務のボランティアを行っている福永馨さんは言います。「物価高騰で生活が苦しいこともあり、フードバンクへの寄付も少なくなっています。今日配布したフードパントリーも、フードバンクからではなく関門ネッツの資金で購入しました。」
この日、教会の協力は開催場所の提供と宣教師と会員数名による運営の手伝いのみでしたが、今後は人道支援事業としての支援を検討しており、その準備として教会福祉・自立サービス部地域人道支援スペシャリストを務める落合淳氏も活動に参加しました。
「現在、日本の貧困率は15%といわれ『よきサマリヤ人』のたとえ*2に出てくる追いはぎにあった人のように、生活に困っている人がたくさんおられます」と落合氏は言います。「日本の社会は貧困者が見えにくい構造になっています。普通に生活していると困っている人はどこにいるの?という感覚ですが、見えにくいけれど困っている人を見出して直接つながっておられる団体が日本にはたくさんあります。そのような団体とつながることで教会も適切な支援を行うことができます。ですから『いのちの関門ネッツ』のような団体さんは教会にとっても大切な存在ですし、連携を通して『あなたの隣人を愛せよ』という、クリスチャンとしての信仰を実践する機会を得られたらと考えております。」
炊き出しとフードパントリーを通して、支援を受ける人と提供する人を笑顔でつないだ「つながりキッチン」。これからも定期的な実施が計画されており、次回は7月に行われる予定です。
*1 宣教師 福音を学びたい人々を見つけて福音を伝えたり、イエス・キリストのような奉仕を行うことで人々がキリストについて知る機会を持てるよう助けたりする奉仕活動に従事している専任の教会員。
*2 「よきサマリヤ人」のたとえ 新約聖書ルカ10章29~37節に登場するたとえ話。強盗に襲われ道に倒れ伏す人を通りかかった祭司もレビ人も見捨てて通り過ぎていったが、その後に通りかかったサマリヤ人だけは介抱して宿屋に連れていき、宿泊費用も負担した。律法学者の「わたしの隣り人とはだれのことですか」という問いにこたえる形でイエスが話された。