
相川豊博士は、理論物理学を専門とする科学者です。1952年に生まれ幼少期から彼の探求心と洞察力は目を見張るものがありました。お父さんが買ってくれた磁石に砂鉄がつくことがわかると、磁石にはN極とS極があって、引きあったり離れたりする力があることに興味を持ちました。廃品になった電気機器の分解をしてはその仕組みを調べ、エナメル線などの部品を集めていました。そのエナメル線を鉄材に丁寧に巻いて電機子を作り、モーターや発電機を組み立てるのが、小学校から帰ってからの何よりの楽しみでした。時計のメカニズムが知りたくて、目覚まし時計を始め家中の時計を次々に分解してしまい、もちろん元に戻せなかったので、お母さんに大変叱られこともありました。


科学的な関心と並行して、相川博士は霊的な理解も求めていました。18歳の時、末日聖徒イエス・キリスト教会に加わった相川博士は、「神様の存在を知ったことは、まるで故郷を見つけたような喜びと安心感があった。」と当時を振り返りました。彼と妻の智香子さんは1984年、東京神殿で結婚し、それ以来、聖典を学び、教会に出席し、人々に奉仕し、神殿に共に行くことを大切にしてきました。
修士課程を卒業後、相川博士は東京大学物性研究所で働きました。結婚を機に故郷の群馬県高崎市に転居し、電子部品の企業に転職してからは、コンデンサーの理論的な研究開発に従事しました。コンデンサーは転移温度までは機能が向上し、それを超えると性能が低下します。その温度では、特定の格子振動の振幅が増大し、結晶構造が変化します。この振動は「ソフトモード」と呼ばれ、相川博士の研究の中心となりました。彼はこの振動と結晶の幾何学的対称性、および原子間相互作用との関係を示す方程式を導き出しました。この方程式は、もともと結晶の相転移を説明するために導かれたものですが、物質全般の相転移にも当てはまることが分かっています。この研究により、1993年に理学博士号を取得しました。

ある早朝、相川博士は深い霊的体験をしました。「美しい連立方程式が思い浮かびました。御霊が、その美しい数式が真実であることを教えてくれ、心に強い印象が残りました。書き留めたいと思いましたが、全てを覚えることは不可能でした。それから5年間ひたすらに計算し、ついにその時に見た数式を導き出すことができました。」
この体験は、ラッセル・M・ネルソン大管長が複雑な心臓手術中に神様の導きを受けたと語った経験と重なります。(2018年4月総大会より)「手術室で横たわる患者の傍らに立ち,前例のない処置をどう行うべきか確信がなかったとき,聖霊がその方法をわたしの心に図解してくださるという経験をしたことを覚えています。」 ネルソン大管長は「わたしたちのあらゆる義にかなった求めにおいて,主は聖霊の示しを通して助けてくださいます。」と教えました。
相川博士は、「一般に全てのことに法則を見出そうとするのが学問の始めです。本当に面白いのは現象とその奥の法則がわかってくることです。そしてどんなに研究を進めデータをまとめても、自然界の奥に潜む法則を探求する時には必ず越え得ない壁が現れます。そのブレークスルーに必要なのは、新しい発想と霊的思考です。肉眼では見えないその現象の中に神の存在を感じます。」と話します。
相川博士の「美しい連立方程式」は、『Theoretical analysis of surface effect of crystal and its application to BaTiO3 fine particle』という論文にまとめられ、2011年に日本セラミックス協会の優秀論文賞を受賞しました。ある審査員からは、「世界中の人口70億人(2011年当時)の中で今この理論を理解できるのはほんの一握りの数人であろう。しかし、この理論の価値は計り知れません。」と絶賛されました。その一例が現代のスマートフォンです。スマートフォンの中には200〜300個のコンデンサーが使われており、相川博士のこの研究によってわたしたちの生活は豊かになっているのです。

一方、工学的見地から、コンデンサーの特性を向上するために材料の充填性を上げ、できるだけ空隙を少なくする技術も求められていました。そこで任意の粒度分布をもつ材料の充填率を求める幾何学的な理論を展開しました。長年にわたり共同研究をしてきた東京工業大学の教授が、ある時、この充填率理論が工学系のセメント分野でも応用できると示唆してくれました。2012年、相川博士は内閣府戦略的イノベーション創造プログラム産学官連携研究員として東京工業大学大学院に転職しました。通常、企業での業績、技術、特許は社外に持ち出すことができませんが、この理論はコンデンサーではなくセメント分野に応用されるため、円満に彼に譲渡されました。これは霊的な祝福であると相川博士は考えています。退職にあたり、これまで苦楽を共にしてきた仕事仲間たちが温かい励ましの言葉をかけてくれました。彼と妻は、ちょうど5年間の家族歴史探求に関する教会のパートタイム宣教師を終えたばかりであり、「携わった数えきれないほどの先祖たちが、私を励ましてくれている姿と重なって見えたのです。まさに幕の両側で大勢の人々が私の研究を支えてくれているように感じました。」と振り返りました。
大学での役割において、相川博士は、セメント材料の充填率理論と、新規水和反応理論とを融合しました。その成果は、「充填率と水和反応に関する理論的考察と最適セメント設計への応用」という論文にまとめられました。その功績が認められ、2016年には64歳にして2つ目の学位となる工学博士を取得しました。

Aikawa-Cement-Award-edited.jpg
相川豊博士、日本セメント協会論文賞受賞 2017年 「高炉スラグ高含有セメントの水和に及ぼす養生温度の影響」 2018年 「粉体粒子の分散性および充填性が超高強度コンクリートの練混ぜ性に及ぼす影響」 2025 by Intellectual Reserve, Inc. All rights reserved.2019年から2020年にかけて、相川博士と妻の智香子さんは福島県郡山市にて教会のシニア宣教師として奉仕しました。仕事を減らしたので、もう第一線には戻れないと覚悟して出掛けましたが、奉仕期間を半分過ぎる頃には、引き続き東京工業大学からの仕事とそれに加えて東京大学からも仕事のオファーがきました。2020年、東京大学では、大学院特任研究員として、C4Sセメント研究開発国家プロジェクト(コンクリート生成時に排出した二酸化炭素を再利用するコンクリ-トの製造)のメンバーとして最先端のセメント開発に参加しました。今年(2025年)開催されている大阪関西万国博覧会では、9月30日から10月6日の間、フューチャーライフヴィレッジにおいて「地球を救う未来のコンクリート NEDOムーンショット」と題し、この東京大学の国家プロジェクトのC4Sセメントが展示されます。
大学では、研究の他に、相川博士は多くの留学生を指導してきました。あるタイ王国の国費留学生は、孤独と不安で引きこもってしまいましたが、相川博士の忍耐強い支援によって立ち直りました。その学生は現在、タイ政府の職に就いており、相川博士を国賓として招待したいと考えています。「特別なことをした訳ではありません。」と相川博士は語ります。「これまでの教会での奉仕や、様々な年齢の方との交流を通して主の支援方法を自然と学んできたおかげと感謝しています。若い世代が学問を学び、自信を持った人生を送れるよう支援することに喜びを感じています。」
相川夫妻は最近、アジア北地域家族歴史スペシャリストとして2年間のシニア宣教師の奉仕を終えました(2023年7月のニュースルーム記事を参照)。2人はすでに次の奉仕の機会に向けて準備を進めており、神様が必要とされる場所で、慰めと支援、そして祈りの答えとなる存在になれることを願っています。
(7月17日更新)
相川ご夫妻は、末日聖徒イエス・キリスト教会の東京南伝道部にシニア宣教師に新たに召されました。
奉仕期間は今月から1年間です。お二人は伝道本部および「指導者&会員サポート」の分野で奉仕されます。

相川豊博士の人生は、科学と信仰の調和を力強く証明しています。彼の画期的な研究と深い霊性は、対立するものではなく、互いに補い合い、豊かにし合う関係にあります。物理学の精密な法則と、霊の静かなささやきの中に、彼は同じ神の御手を確信しています。彼の物語は、真理の探求——それが科学的であれ霊的であれ——が、深い発見、目的、そして平安へと導くことを私たちに思い出させてくれます。